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福岡高等裁判所 昭和39年(ネ)468号 判決

控訴人 竜王ガス株式会社

右代表者代表取締役 樺島睦典

〈外二名〉

右三名訴訟代理人弁護士 高木定義

被控訴人 伊藤忠燃料株式会社

右代表者代表取締役 中川寿

右訴訟代理人弁護士 谷本二郎

同 安東五石

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決中控訴人ら勝訴の部分を除きその余を取消す。福岡地方裁判所飯塚支部昭和三九年(ヨ)第四号有体動産仮差押決定を取消す。被控訴人の本件仮差押申請を却下する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上並びに法律上の陳述は

控訴代理人において

(イ)1、被控訴人は昭和三九年二月五日付で本件仮差押決定を原裁判所より受けた。

2、控訴人らは同年二月一〇日付で原裁判所に起訴命令の申請をした。

3、原裁判所は同年二月一〇日付で本案訴訟をなすべき旨の決定をなし右決定書を被控訴人に送達した。

4、然るに被控訴人は期間内に本案訴訟を提起しないので控訴人らは同年三月四日付で仮差押決定取消の申立を原裁判所に提起した。

5、右申立に基く第一回口頭弁論は同年三月一七日で右期日に被控訴人は出頭しなかつたので右期日は変更された。

6、被控訴人が本案訴訟を福岡地方裁判所に提起したのは同年四月一六日である。

以上の事実関係から明かなように被控訴人は起訴命令に定められた期間内に本案訴訟を提起しなかつたので本件仮差押決定は取消さるべく、これに反する大審院及び最高裁判所の判例は変更せらるべきである。

(ロ)  被控訴人は原裁判所から起訴命令が発せられたに拘らず、その期間を徒過し、控訴人らが申立てた前記仮差押決定取消請求事件の第二回口頭弁論期日の直前に漸く本案訴訟を提起したものであるが、右は民法第一条の二、三項にいわゆる権利の濫用であり信義誠実の原則に違反するものである。

(ハ)  原判決は本件につき民事訴訟法第九〇条を違脱して訴訟費用につき控訴人に負担を命じている。しかし右の如きは、法定期間内に権利の行使を怠つた債権者を保護することになり不当であるから、右の訴訟費用は被控訴人に負担せしむべきものであると述べ

被控訴代理人において、控訴人主張の(イ)の1ないし6の事実は認めるが、以上の事実関係において原裁判所の判断は正当である。(ロ)(ハ)の控訴人の法律上の見解はすべて理由がないと述べた外、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

理由

当裁判所も原審と同一の理由により控訴人らの本訴請求は原審認容の限度において正当としてこれを認容し、その余の部分は失当としてこれを却下すべきものであると認めるので、次の点を補足する外、原判決理由を引用する。

第一点、控訴人らの主張する事実関係についてはすべて当事者間に争ないところである。

控訴代理人の見解を要約すると、起訴命令所定の期間経過後債務者が民事訴訟法第七四条第二項により仮差押の取消を申立てた場合に取消訴訟の口頭弁論の終結に至るまでの間に債権者から本案訴訟の提起ある限り仮差押はこれを取消すことを得ざるものとする大審院及び最高裁判所の判例は前記法条の明文にも反し変更さるべきものであるというのであり、この点につき学説にはこれと見解を同じくするものもあるが、当裁判所は原審と同様の見解により前記判例に従うのを相当と認めるから右控訴代理人の主張は理由がない。

第二点、前記のとおり債権者は起訴命令の期間経過後も取消訴訟の口頭弁論終結時に至るまで本案訴訟を提起しうるものと解すれば、債権者である被控訴人がかような権利行使をしたからといつてこれが民法第一条の二、三項に規定する権利の濫用又は信義誠実の原則に違反するものでないことはいうまでもないところであり、この点に関する控訴代理人の主張も採用できない。

第三点、上訴が全部理由なしとして棄却された場合に、上訴裁判所が第一審裁判所の訴訟費用の裁判の当否について審判し、これを変更することができるか否かの点に関しては学説は分れ、判例は大審院及び最高裁判所を通じてこれを否定し第一審の訴訟費用のみについて変更判決をなすことは許されないものとしている。

けだし、民事訴訟法第三六一条は訴訟費用の裁判に対し独立して控訴することを禁じているが、理由のない上訴でもおよそ本案に対する上訴がありさえすれば訴訟費用の裁判に対する上訴が許されるとすれば、右条項を設けた趣旨が没却されることになるのみならず、同法第九六条は上級裁判所が本案の裁判を変更する場合に訴訟の総費用について裁判をなすことを規定している点から見ると、本案の裁判を変更しない場合に附随的裁判である訴訟費用のみについて変更判決をすることは予想していないものと見るのが相当であるから、当裁判所も右判例の見解に従うものである。

この点に関する論旨も理由がない。

よつて原判決は正当で、本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三八四条・第八九条・第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩永金次郎 裁判官 岩崎光次 小川冝夫)

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